メトロ 1953(昭和28)年 第10回東丘社展 紙本着色 1面 166.0×121.0cm
 敗戦により伝統的なものが否定されがちな時代風潮の中においても、印象の描く主題や画風的な変貌は当時の人々を騒然とさせた。周囲の毀誉褒貶の中、1952(昭和27)年、印象は日本画家として戦後初めての渡欧をする。約半年をかけてパリを中心にイタリア、スペイン、西ドイツ及びスイスを旅して見聞した事物は以降の制作に積極的に活用されて行くことになる。
 帰国後東丘社展に出品されたこの作品も、題名通りパリを代表する風物であるメトロ=地下鉄の車内を描いたもの。
 老若男女は互いには全く無縁な存在として各々の空間で立ち、或いは座る。芸術紙を読む男の背後に見える表情のない顔々は都会人の孤独や無関心、雑踏の中での無人格性といったものを感じさせる。ただ、そんな相互関係のない筈の人々も、見ようによってはメトロを利用する目的で共通の場所に集う運命共同体とも言えはしないか。不安の中に安住するような現代人の営みをそのまま提示するかのようである。当時のパリ、また現在の都会ではありふれた光景ではあろうが、印象の眼はそんな現実社会での逆説を示唆した。一連の寓話的社会画の範疇に入る作品だが、今までに見られなかった鮮かな色彩と簡素な形を主体とした内容表現は、近年の姿勢が渡欧研究により推進されたことを物語っている。

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