疑惑 1954(昭和29)年 第10回日展 紙本着色 1面
 「恋愛、結婚、遺産、運勢占います−手相、カルタ、水晶球」。占い小屋が開店中である。占師はジプシーか。小屋は車などで引く移動住宅となっており、その流浪の生活を示している。一人の女性が前を通り過ぎて行く。中央には白壁が広がり、無人の白い椅子がホツンと一つ置かれているばかりの画面に作者の哲学的寓意性を感じずにはいられない。
 人々は占いを信じたり、疑ったり、また、頼る愚を笑うこともある。“疑惑”を持ったように通り過ぎる女性は何かを占いにかけたのであろうか。しかし、人生の節目としてそれぞれ重大事に捉えるからこそ、占いの大きな対象となり得る恋愛や結婚、遺産であるに違いない。作者はその重大事に、煎じ詰めれば人生そのものへ“疑惑”を向ける。白壁や無人の椅子はそんな人生の空虚さを示すかのようである。

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