交響 1961(昭和36)年 第4回新日展 紙本着色 1面
 「楽譜を私なりに解釈して、絵の中に私の交響曲を表現したい」とは制作に当っての印象の言葉である。交錯し、重なり、結合する線の濃淡が三次元的空間を創り出す。墨や絵具の飛沫や背後に沈潜する多彩で微妙な色彩とともに、それらの波動はそのまま音に置き換えることすら可能である。
 前年の『無間知覚』あたりから本格的に始まった表現手法−−様々な形相の線の交錯と飛沫というメタファーによる−−は本作においてはっきり結実したといえよう。無論ここでも、アンフォルメルの影響は感じられるが、情感溢れる墨線、日本画固有の素材である紙本や顔料の微妙な風合や色合からは料紙装飾的な感覚が窺える。ひいてはそれが日本人の精神的な韻律に触れ、観者はある種の教化を受けるのである。「抽象表現と呼ぶには装飾的で、題名も説明的に過ぎる」と評されることがある作品も「象徴表現」と考えれば受け取りやすいだろう。事実、本作が印象の作品の中でも特に有名で人気高いのは、日本画材の“交響曲”が象徴するある種の東洋哲学的な荘厳感故に相違ない。

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