風神 1961(昭和36)年 絹本着色 6曲1隻
 1961年5月トリノの芸術家クラブにおいて、イタリア統一百年祭の記念行事として、印象は個展を開催したが、その実現にはアンフォルメルの提唱者ミッシェル・タピエの周到な計画があった。新作の抽象画を中心に具象画も併せた約60点の展観の中、同じく6曲屏風による『雷神』とともに出品されたのが本作である。宗達以降多くの作家によって取上げられた“風神雷神”はそれだけ日本の風土的なものに根差した対象といえようが、作者は精神的な伝統はそのままで、現代の様式に基づく新たな“風神雷神”を生み出している。
 金地に風を表すかのような黒や白の力強い線が所狭しと走り回り、その筆致の長短、緩急が画面を制圧し、風雲急を告げるといった感が漂う。作者が主に手がける中央に線が交錯し集中する構成に対し、ここでの拡散的な構成は外へと放出せんばかりのエネルギーを発している。「装飾性が強く本来の抽象とは違う」という批判が少なからずあった日展への出品作とは異なり、即興的な速度感や流動性に溢れている。以前、京都の自宅を訪れたタピエらと歓談した際、彼ら(西洋人)が「じっくり描いた極彩色のものより、速度のある墨絵に興味を持っている」ことを確信した印象が、ある程度意図的に“即興的効果”を押し出したともいえようが、それらの方法を超えたオリジナルで美的な精神表現の結実こそが欧米で大きな反響を呼んだのである。

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